東京地方裁判所 昭和48年(ワ)3225号 判決 1974年9月20日
原告 大沢彦太郎
右訴訟代理人弁護士 雪下伸松
被告 西武建設株式会社
右代表者代表取締役 岩沢松二
右訴訟代理人弁護士 須田清
被告知人 須藤咲雄
主文
一 被告は原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明渡せ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 主文第一、二項同旨
2 仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一~四 ≪省略≫
五 再抗弁
1 原告は、昭和四八年四月被告を債務者とし本件土地の所有権に基づく本件建物収去土地明渡請求権を被保全権利として東京地方裁判所に対し本件建物につき譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分を禁ずる旨の処分禁止の仮処分申請をなし(同庁同年(ヨ)第二、八二三号事件)、同月二四日、その旨の仮処分決定を得、翌二五日、右仮処分は本件土地の登記簿にその旨記載され、右仮処分決定はその執行を了した。
なお、同年五月二日、右決定正本は債務者たる被告に送達された。
2 右のような事実関係からすれば、被告と訴外須藤間の本件建物売買契約が被告によって解除され、右建物の所有権が同訴外人に復帰し、それに伴って本件土地の占有も同訴外人に移転したとしても、右所有権の移転(復帰)は、右仮処分決定に違反するものであり、原告に対してこれを主張できないというべきであって、法律上は依然被告が本件建物の所有者ひいては本件土地の占有者とみなされるものである。
3 なお、原告は、訴外塚原力に対して、昭和四七年五月一日付到達の書面を以て、同訴外人が同四六年七月以後本件土地の賃料を支払わないことを理由として本件土地賃貸借を解除する旨の意思表示をした。
六 再抗弁に対する認否
1 再抗弁1は認める。3は知らない。
2 再抗弁2の法律上の主張は争う。
被告のなした本件建物売買契約の解除は、仮処分登記後になされたものであるが、仮処分登記前に成立した契約について、訴外須藤の債務不履行を理由としてなされたものであり、仮処分登記後に生じた、被告の意思に基づく処分でないことが明らかであるから、右解除は、仮処分によって禁止されている「処分」には該当しないというべきである。
七 被告は須藤咲雄に対して訴訟告知をした。
第三証拠≪省略≫
理由
一 (一)原告が本件土地を所有していること、被告が、昭和四八年三月一三日から同年七月三日まで本件建物を所有してその敷地である本件土地を占有していたこと、(二)訴外塚原力が昭和四三年頃、原告から建物所有の目的で本件土地を賃借し、その後、本件土地上に本件建物を建築所有したことは当事者間に争いがない。
二 本件建物の所有権が、訴外塚原力、同山崎義男、同角間碩子、同須藤の順に移転されたことは当事者間に争いがなく、右当事者間に争のない事実、前記一の(二)の事実、弁論の全趣旨および≪証拠省略≫によれば、前記一の(二)の本件土地賃借権もまた右順序で移転されたことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
三 被告が、昭和四八年三月一三日、訴外須藤から本件建物の所有権を取得したこと(同年四月一一日、中間省略の登記の方法により所有権移転登記を了した。)は当事者間に争いがなく、右事実ならびに前段認定の事実、≪証拠省略≫によれば、訴外須藤と被告との間で同年三月一三日、本件建物を前記本件土地賃借権付きで売買され、そのさい右賃借権の譲渡につき訴外須藤において原告の承諾をうる旨特約されたことおよび被告が右売買により訴外須藤から本件建物の所有権を取得したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
四 訴外須藤と被告間の本件土地賃借権譲渡について原告の承諾がなかったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と前記認定事実および争いのない事実をあわせ考えると、他に特段の事情の認められない本件においては、被告は、昭和四八年三月一三日以後本件土地所有者である原告に対抗できる権原なくして、本件建物を所有することによりその敷地である本件土地を占有するに至ったものである。
五 ところで、被告は訴外須藤の債務不履行により前記売買契約は解除され、本件建物の所有権は同訴外人に復帰したと主張するので検討する。
≪証拠省略≫ならびに前記三に認定した事実によれば、被告は、昭和四八年七月三日、訴外須藤が本件土地賃借権の譲渡につき原告の承諾をえないまま放置するので、同訴外人の右の承諾をえない債務の不履行を理由として本件借地権付建物売買契約を解除した事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。
右事実及び前記三に認定した事実によれば、通常の場合には本件建物所有権および本件土地占有は被告から訴外須藤に移転され、被告は現在、建物所有、土地占有をなしていないというべきである。
しかしながら、原告が、被告を債務者として本件建物につき、原告主張のような被保全権利によりその主張のような処分禁止の仮処分申請をなし、昭和四八年四月二四日、その主張のような処分禁止の仮処分決定をえ、同月二五日右仮処分は本件建物の登記簿にその旨記載され、その執行がなされたこと、同年五月二日、右決定正本が債務者たる被告に送達されたことは当事者間に争いがない。
右のような処分禁止の仮処分がなされた場合には、それは土地所有権に基づく建物収去、土地明渡請求訴訟の係属中、建物の所有権が転々と譲渡される都度、原告が訴訟の相手方を変えなくてはならない不都合を避け、当事者を恒定する目的によるものであるから、仮処分債務者が、仮処分に違反して、建物の所有権を第三者に移転しても、これをもって仮処分債権者に対抗できず、その本案である建物収去、土地明渡請求訴訟においては、依然として仮処分債務者が建物を所有しているものとして取り扱われるべきものと解するのが相当である。
そして、前記仮処分債務者たる被告が前記仮処分後、これに違反して本件建物を訴外須藤に移転したこと前示のとおりであるから、その本案である本件においては、前記仮処分債権者たる原告に対する関係では、依然、被告が本件建物を所有しているというべく、これにより被告はその敷地である本件土地を占有しているものとなすべきである。
もっとも被告は、本件解除は、仮処分によって禁止されている「処分」に該当しないと主張し、その理由として、仮処分執行前に成立した契約の、相手方の債務不履行に基づく解除であって、仮処分執行後に生じた、被告の意思に基づく処分ではないことをあげているけれども、仮処分命令に掲げられている主文の文言(一切の処分)および前記のような仮処分の目的から考えると、仮処分によって禁止される「処分」のうち被告主張の場合を除外すべきものとは解し難く(仮処分債務者と第三者との間で解決されるべき問題である)、被告の右主張は採用することはできない。
六 以上によれば、原告の被告に対する本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 相原允)